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けがを通して信深まる

Y・K(26歳 女性 大阪府)

歌手になる夢を叶えるために

私は歌手になるのが夢です。2年前に親の反対を押し切って、高校卒業から約6年間勤めた会社を退職し、長年抱いてきた夢を実現するために上京しました。

歌手を目指す活動のほかに、週に5日ほど飲食店でアルバイトをしていますが、店は自宅から電車で1時間ほどのところにあり、帰宅するのはいつも終電でした。

大切なオーディションを翌日に控えた昨年5月11日、私はいつものように夜遅くまでアルバイトをしていました。

そのオーディションは、全国上映される映画の出演者を選ぶもので、お世話になった歌手養成所の方に声をかけていただいたものです。

このような機会は初めてだったので、「万全の状態で本番を迎えたい」と、少しでも早く帰宅して体を休めようと思っていました。

割れた瓶で右手首にケガを

後片付けの時のこと。右手にガラス瓶を持ち、左手でゴミ箱を引きずって歩いていた私は、足を滑らせて転んでしまいました。

その日は雨で、床が濡れていて滑りやすく、大きいゴミ箱を2つ重ねていたので結構重みがありました。

いつもより早く帰宅したかったため、一気に片付けようと横着をして、たくさんのものをまとめて運んでいたのです。

転んだ時に割れた瓶で、私は右手首を切っていました。出血がひどく、まわりの人が止血してくれていると、いつの間にか救急車が到着し、近くの大学病院に搬送されました。

午前0時頃でしたが、偶然にも手を専門にする外科医がいらっしゃって、緊急手術を受けることになりました。

夢を追ってはいけないのか・・・

翌日、全身麻酔から目覚めた私は、右手首から指先まで包帯でぐるぐる巻きにガッチリと固定されているのを見て、唖然としました。

結局、2週間入院することになり、大切なオーディションにも行けません。

「初めていただいた大きなオーディションだったのに、どうして私がこんなケガをしないといけないのか。夢を必死で追って、頑張ってアルバイトもしているのに」と、私は落胆しました。

そして、残念さのあまり「私は夢を追ってはいけないのだろうか。今まで信じてきた仏様って何なんだろう」とまで思ったのです。

申し訳ないという思い

数日後、母親と姉が仕事を休んでお見舞いに来てくれました。

私は、弱っている姿を見せると余計な心配をかけると思い、「大丈夫。治るよ」と口では言っていましたが、内心は「本当に治るのかな。手に感覚はないし、全く動かない。私の夢は終わってしまったのかな」と不安でいっぱいでした。

しかし、母や念法寺の信徒さんたちが、私のケガ全快を願ってお護摩で祈ってくださったと聞くと、うれしくて「皆さんが仏様に頼んでくださっているのに、私だけが頼まないで落ち込んでいるのでは申し訳ない」という思いが湧いてきました。

そして私も念珠を手に、念法のご眞言を称えて仏様におすがりするようになりました。

仏様への疑問

術後3日目に、消毒のために包帯を取ると、手の筋肉が落ちて骨と皮だけのようになっていて、ショックを受けました。

翌日から始まったリハビリでは、超音波を当てたり、お湯に指をつけて筋肉をほぐし、指の曲げ伸ばしを繰り返します。

日毎に痛みが増しましたが、私は必死でご眞言を称えて耐え、リハビリの先生には一切「痛い」と言いませんでした。

そんな日々の中、私はずっと「仏様はどうしてケガをする一歩手前で守ってくださらなかったのだろう」と疑問に思っていました。

私は幼い頃に念法の仏様とのご縁をいただき、困ったりお腹が痛くなったりすると、ご眞言を称える習慣が身に付いています。

ケガをした部分を念珠でさすりながら何度も何度もご眞言を称えましたが、仏様への疑問は消えませんでした。

感謝の心でみるみる回復

その後、ケガはみるみる回復し、リハビリで指が少しずつ動き出し、感覚も徐々に戻ってきました。

手首を切ると、なかなか動かせない所が出てくるらしく、主治医の先生から「後遺症で右手が使えなくなる可能性がある。今から左手で生活できるよう準備してほしい」と言われていたのですが、先生も驚くほどの回復ぶりでした。

そんな私は次第に「リハビリを毎日2回もして、先生の言うことも聞いて、私が頑張ってるからだもん!」と思うようになってきました。でも、そういう思いを抱いた翌日は、不思議なくらいに痛かったり、手が固まったりと、具合がよくありません。

ところが、「具合がいいのは仏様のおかげ」と気付いて、素直に感謝できるようになると、痛みがありません。

ようやく仏様への疑問が消え、「仏様は生きて働いてくださっている」と実感できたのです。

歌を通してお役に立ちたい

ケガをして1年が経ちます。

まだ、動かしにくい指があったり、力が入りづらかったりしますが、箸を使って食事をいただけるなど、日常生活に支障はありません。

今までなかなか足を運べなかった念法寺の月例祭にも参拝するようになり、オーディションにも積極的に参加しています。

ケガをするまでは、自分が歌いたいから、聞いてもらいたいから歌手になりたいという思いが強かったのですが、ケガをしたことで、歌を通して世の中のお役に立てるようになりたいと思うようになりました。

これもすべて仏様のおはからいだと感じ、あらためて感謝しています。

いつか夢を叶え、ご恩返しをしたいという一心で頑張っていこうと思います。