ホームステイを体験して
I・M(21歳 女性 栃木県) |
イギリスにホームステイへ
私は、大学の文学部で英米文化を研究しています。
2008年2月に、大学のプログラムの一環でイギリスに約1ヶ月間のホームステイをしました。
受け入れてくださったのは、ご主人のエリックさんと奥さんのポーリンさん、18歳になる娘のエイヴリンさんの3人家族と、ベンガル猫のウィスパー。
イギリスに発つ前に手紙を送ると、エリックさんから「何も心配することはないから、本当に必要なお金だけ持ってくればいい。嫌いな食べ物があったら、すぐに言うように」と書かれた返事が来ていたので、安心して発つことができました。
到着した夜、エリックさんに「君は何をするためにここまで来たのか、誰のおかげでここに来られたのか、それを忘れてはいけないよ」と言われ、あらためてホームステイの意義を考えさせられました。
見知らぬ土地で気付いた親の恩
初日、エリックさんは、私が迷わず学校に行けるようにと、学校まで一緒に行ってくれました。
バス停の場所や地下鉄の乗り換え方法などを何度も復唱させ、私のペースに合わせて確認してくれたエリックさん。時間がない中で、私のために時間を割いてくれて、とても嬉しく感じました。
翌朝、私は一人で学校に行きました。
途中、とても不安でしたが、「ここでは私を助けてくれる人はいない」と思った時、見送ってくれた父のことを思い出しました。
イギリスへ発つ日、大きなスーツケースを引きずる私を心配した父が「成田空港まで送ろうか」と言ってくれたのです。
私は「途中まででいい」と言って、一度は最寄り駅の改札前で別れましたが、急に心細くなって、ホームまで来てもらいました。そして、手を振る父の姿が見えなくなってから、一人でこっそり泣きました。
そのことを思い出すと、イギリスという見知らぬ土地で不安を感じながらも、私がいかに両親に大切にされているかということに気付き、涙があふれそうになりました。
この時に感じた気持ちのおかげで、イギリスにいる間、常に感謝の気持ちを忘れずに過ごすことができたと思っています。
エリックさんの思いを知って
4日目に、エリックさんがホームステイの受け入れを始めた理由を聞きました。
理由は3つあり、1つ目は「娘を連れてさまざまな国に行ったが、行く先々で人々が親切にしてくれたので、今度は自分の国を訪れる人たちの手助けができれば」と考えたため。
2つ目は、エリックさんが前年に喉頭ガンの手術をして外出できなくなってしまったため、誰かをホームステイさせたら何かできることがあるのではないかと考えたから。
そして3つ目は、お金になるから。彼はジョークが好きな人でした。
この話を聞いて、喉頭ガンで流動食しか食べられないのに、私のために毎日、朝食と夕食を作っていただいていることが本当にありがたいと思いました。
それからは、手伝えることは手伝おうと思い、食器洗いなどをするようになりました。
気付かせてくれたエリックさんに感謝
一度、パブに出かけた時に、夕食はいらないと電話をしたことがあります。しかし、電話をするのが遅かったため、エリックさんはいつものように夕食の準備を始めていました。
その時、エリックさんは「例えば、君のお母さんが夕食を作って帰りを待っている時に、君が『夕食はいらない』と言ったら、お母さんはどんな気持ちになるかな?」と諭してくれました。
私は申し訳なくて、ただ謝ることしかできませんでしたが、気付かせてくれたエリックさんにはとても感謝しています。
余談になりますが、結局遅く帰ったその日、エリックさんが作った夕食を平らげて、「君は馬のように食べるね」とからかわれたのも、いい思い出です。
この家族の一員になれて良かった
エリックさんは毎日、私の宿題をチェックしてくれて、夕食後に最低1時間は話をする時間をくれました。そのおかげで、充実した時間を過ごすことができました。
奥さんのポーリンさんと会ったのは3回だけでしたが、帰国2日前に最後に会った時には、無事に日本に帰れるようにと、お守り代わりのアクセサリーをいただきました。
その嬉しさと、帰国の寂しさから部屋でこっそり泣いていた私に、「あなたはいつでもここに帰ってきていいんだから、泣く必要なんてないのよ。笑って」と抱きしめてくれたことを思い出します。
残念だったのは、年齢の近いエイヴリンと仲良くなりきれなかったこと。家族の中では、彼女の英語を理解するのがいちばん難しく、年齢が近いことが逆に変なプレッシャーになり、自分の拙い英語で会話することをためらってしまったのが、今でも悔やまれます。
でも、この家族の一員に入れてもらえたことが、何より良かったことだと思っています。
笑顔は言葉の壁を超えると実感
イギリスで通っていた語学学校には、韓国、ロシア、ブラジル、スペイン、イランなど、さまざまな国の人がいて、しかも年上ばかり。そして、みんな積極的に英語を話していました。
私は「ここで気後れしたら絶対に悔しい思いをする」と思い、できるだけいろんな人と話すように心がけました。
クラスメイトと過ごすうちに感じたのは、笑顔の力でした。
私は英語があまり上手ではありませんが、目があったらまず笑顔。ただそれだけで、話したことがない相手でも自然と笑顔になって、私に興味を持ってくれました。
「私は楽しんでいるよ」という気持ちが伝わり、一緒に笑えれば、もう怖いことは何もありません。「あなたの笑顔が好き」と言ってもらえたことが、とても嬉しかったです。
念法さんでは「笑顔を大切にしよう。宗教や国境を超えて、皆友だちになろう」と教えてもらっていますが、本当に笑顔は言葉の壁を超えるんだなと実感できました。
ホームステイ中、今まで何気なく過ごしてきた環境のありがたさというものを強く考えさせられました。安心して帰れる場所があるからこその充実した体験だったのです。
私を応援してイギリスに行かせてくれた両親に心から感謝しています。ありがとうございました。